エキスパートネットワーク企業であるGLGには、新たなクライアント戦略があります

Alexander Saint-Amand氏が19歳だったとき、母親が特発性皮質萎縮と診断されました。医師によるこの言葉は、母親の脳は委縮を続けているが原因はわからないということを意味していました。

Saint-Amand氏は当時は認識していませんでしたが、この悲劇により、世界最大のエキスパートネットワーク企業であるGerson Lehrman GroupのCEOとなることを運命づけられたようです(GLGは、投資にかかるエッジを探索するファンドマネージャーら企業担当者と425,000人の業界エキスパートをマッチングしています)。

「高校3年生の間は大丈夫でしたが、大学1年生のクリスマス休暇までには、母は私たちが誰なのかわからなくなりました」と、42歳になったSaint-Amand氏はGLGロンドン事務所で語りました。

母親の認知機能が低下していく中、Saint-Amand氏は何が原因かを必死に求めていました。1998年、在学中にGLGでパートタイムの仕事を開始したとき、その答えを探す機会に巡り会いました。GLGはその頃、Thomas Lehrman氏とMark Gerson氏がニューヨークで設立したばかりで、

業界レポートを投資家向けに作成する会社でした。Saint-Amand氏は記者として雇用され、最新の医療ブレークスルーに関する記事作成のために、神経科学関連の学会に派遣されました。そこで彼は、母親の病気の原因は何かについて、脳分野のトップエキスパートに質問することができました。

科学者の話を聞くことは、「信じられないほど満足度が高いものでした」とSaint-Amand氏は当時を振り返ります。それでも彼の母親がアルツハイマー病であると診断されるのに何年もかかりました。この経験は、GLGのビジネスモデルに関するひらめきにもつながりました。退屈なレポートを投資家向けに作成するより、投資家をエキスパートと直接結びつけたらどうだろう。彼らは、求めているまさにその情報に出会うことができるのではないだろうか?

「1対1で、あるいは小グループという環境で他の人から学ぶというのは、最も効果的な学びの方法であり、想像以上にスケーラブルなのです」とSaint-Amand氏はいいます。

Gerson氏とLehrman氏からも同意が得られ、GLGの戦略を、ウォールストリートの投資家と、ビジネスリーダー・科学者・学者などの外部の業界エキスパートをマッチングするサービスへと作り変えたのです。GLGは高成長を遂げ、今年の売上は前年比15%増の400百万ドルに達する見通しです。

顧客はGLGとの年間契約のもと、対面ミーティングや電話会議を通じて、エキスパートの経験や知見を学びます。ユーザー4人の利用で年間10万ドル程度、ヘビーユーザーになると何百万ドルも支払うケースもあります。GLGに加入するエキスパートは、1時間の電話会議で1,000ドルの収入を得る機会もあります。

Saint-Amand氏によると、クライアント企業はGLGを通じて様々な疑問への答えを探索しています。たとえば、「なぜ日本ではこの種類の餃子を食べないのか?」「石油掘削装置の安全に関して、最も事情に精通している人は誰か?」といった課題です。

しかし、クライアント企業の中には秘密情報入手のためにGLGを使っている者もいるのではないか、という疑念に悩まされる時期もありました。

2014年、SAC Capital社(ヘッジファンド)のファンドマネージャーだったMathew Martomaが、史上最も儲かるインサイダー取引スキームだと称され、懲役9年の判決を受けました。Martomaは、上場企業であるElan社とWyeth社が開発中の、アルツハイマー病の実験薬に関する非公開の情報を入手しました。Martomaは、この情報に基づいた株式投資から、275百万ドルの儲けを得ました。

GLGは、Martomaにアルツハイマー病向け医薬品の治験に関与した神経学教授であるSidney Gilman氏を紹介しました。GLGはMartomaとのミーティングの対価としてGilman氏に10万ドルを超える金額を支払いましたが、罪には問われませんでした。

「当社では、情報のやり取りに関する多くのルールが設定されていますが、両者は共にそれらを破ったのです」とSaint-Amand氏は述べています。

スキャンダルのうわさが広まったために、GLGは近年コンプライアンス体制をさらに強化してきました。当社は 世界中に1,300人の従業員を抱えていますが、うち50人がコンプライアンス担当者です。

「当社は、利用者による正当な利用ができるよう各種のフレームワーク構築に非常に注力しています」とSaint-Amand氏といいます。「もし、何か悪いことをしたい、あるいは言及すべきでないことを誰かに喋りたいのなら、GLGは最悪の場所です。”

GLGでは電話の録音などの取り締まりはしませんが、顧客にそのためのツールを提供しています。また、GLG加入エキスパートには、提供可能な情報か否かについて「厳格なトレーニング」を実施しています。

Integrity Researchというコンサルティング会社でプリンシパルを務めるSanford Bragg氏は、GLGは最も評判の良いエキスパートネットワークの一つであるといっています。近年のインサイダー取引に対する米国での取締りにより、投資家はコンプライアンス問題により注力しなければならない状況にある中、上記のGLGの取り組みは重要なセールスポイントになっています。

2008年の金融危機の後、Lehman Brothersのような顧客の破綻やコスト削減の煽りを受けたことで、GLGの収益は減少しました。インサイダー取引規制に違反することを懸念して、エキスパートネットワークの使用をやめたクライアント企業も多くいました。

しかし、現在GLGは再び成長スピードを加速しています。2015年は、海外事業の拡大や金融セクター以外のクライアントとのビジネス進展により、前年比15%増の350百万ドルの売上を達成しました。

足元では、収益全体の約3割は、GE社やCisco社など非金融企業からのもので構成されています。マネジメント・コンサルティング企業はGLGプラットフォームのヘビーユーザーです。

GLG は利益を開示していませんが、GLG社やThird Bridge社、AlphaSights社、Guidepoint社などの競合各社は、20%程度の純利益マージンを上げていると、Bragg氏は推定しています。Bragg氏は、近年のコンプライアンスへの要求の高まりを背景に、「エキスパートネットワーク産業への参入障壁は劇的に高くなった」と述べています。

昨年、情報産業に特化したPEファンドであるSFW Capital Partnersは、2億1,200万ドルの投資を行いました(企業価値は7億ドル超)。Saint-Amand氏は、「GLGはロンドン、東京、および北京など12カ国拠点を構え、リサーチプロバイダーやカンファレンス運営会社など他の情報関連ビジネスを凌駕するために、顧客向けの新たなサービスの開発を進めています。

また、GLGは、1対1の学びについて、現在認識されているよりずっと大きな可能性があると考えています」と述べています。